9.身体と深く向き合うということ【高校③】

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それまでに積み重ねてきた、走力や守備やその他技術に加えて、セーフティバント(普通のバント含)という武器をもつことにより、出場機会に恵まれたことを先述しましたが、本質的には打撃の向上がなければチームへの貢献やレギュラー奪取にはつながらないことは理解していました。

元々僕は理論派といいますか、左打者に変えたのも人体力学の本を元にしましたし、本やプロを参考にして取り込みながら、監督やチームメイトの意見をききながら振りこむスタイルでした。

ある日、自主練中にホームランを意識的に打ってみる試みをしてみました。フォームはめちゃくちゃでしたが、何個か形を試していると、ボールとバットのインパクト時の音が明らかに違うことがありました。「構え時に足幅をほぼとらない」「テイクバック時に上半身と腕とバットを過剰にうねらす」「バットを下から出す(いわゆるアッパースイング)」時に強い打球を打てることがわかりました。

中村紀洋のフォームをより特徴的にさせたイメージが近いです。

学んできた確率の高いフォームとはかけ離れたものでしたが、自分のなかでは非常にしっくりきました。身体の筋が全て連動し、力強くシャープに触れている感覚がありました。正解かどうかは全くわかりませんでしたが、忘れないようにそのフォームで夜遅くまで振りまくりました。

次の日打撃練習の時に思い出しながら何度か試してみました。周りの反応はなにそれふざけてんの?といった感じで、監督からも確率の低そうなフォームだなと言われました。僕の中ではいたって真剣で、気にせず細かな微調整を続けました。

この時生まれて初めて身体と会話をした気がします。奇妙な表現かもしれませんが、その表現が最も合っています。

その週の土日に対外練習試合がありました。周りの目など気にせず、その変なフォームで打席に入りました。その打席である球場のフェンス直撃でスリーベースを打ちました。そしてその日は4打数3安打くらいで凡打もありましたが、明らかに打球の質が違いました。

変なフォームで、しっかりと結果を出したのです。

後から分析すると、それまでは意識していたはずのテイクバック時のうねりや割れは十分ではなく、それ以降は十分になったのだと思います。他人が決めた理論ではなく、自分の身体と深く向き合う・感覚を大事にすることが実は最も合理的なのではないかと思いました。

バガボンドを初めて読んだときに、難聴の人が成長している描写等を見たときに、この時の感覚が重なりました。

そこから身体と会話しながらフォームを仕上げ、確率を上げていきました。

最終形では、たぶん2割5分くらいだった打率が、ゆうに4割を超える選手となり、そこからは中心選手として活躍できました。

結局、甲子園に出場することはできませんでした。こんだけ死ぬほどやって何で優勝できねーの、、という気持ちはありましたが(笑)本当に良い経験ができ良い仲間と出会うことができました。

特に、自分の感覚を信じることの重要性を学んだことは大きかったです。

あと、こういったチームには必ず支える側に回る人がいます。その人達の涙を見たのは何よりも大きな経験でした。綺麗事ではなくその気持ちを直に感じることができました。そして当時も感謝していましたが、社会を見てきてこの歳になって、よりその気持ちが大きくなっています。この気持ちを忘れないように過ごしていきたいと思います。

本当に色々ありました。野球という素晴らしいスポーツと太っていた自分に感謝したいです。

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